crocus
『4月7日。帝王切開で、無事に双子が生まれた。母ちゃん、ありがとう。お疲れ様。名前は、翔と祥だ。由来は大きくなったら教えてあげよう』
『12月25日。翔と祥が、4歳になって初めてサンタと握手をした。「時給いくら?」なんて言うから驚いた。きっと、物事の本質を見抜く力をもっているのだろう。そして、僕が作ったショートケーキを2人とも笑顔で食べてくれた』
『9月24日。翔と祥が、小学校に通うようになって、5ヶ月。僕の店がやっと完成した。店の名前は、「ル スリール デ ジュモー(le sourire des jumeaux)」フランス語で"双子の微笑み"。母ちゃんと一緒に決めた。趣味程度だったケーキ作りが、開業にまで至った原点は、翔と祥の笑顔だ。それを忘れないように…』
『11月5日。今日、定期検診に行ったら病気が見つかった。なかなか手強い相手らしい。僕は、あと何回ケーキを焼けるだろう。あと何回、翔と祥に食べさせて、笑顔を見れるだろう。母ちゃんを幸せにすると誓ったのに、ごめんな』
『2月8日。もう、明日には入院をしなくちゃいけなくなった。帰ってこれるかな、帰ってまたケーキを焼きたい。だけど今となっては、まだ小5の翔と祥、母ちゃんを残して逝くことが何より恐い。思い出が少なすぎる。僕は決していい父親じゃなかったと思う。叶うことなら、苺をみんなで作りたい。なぜ苺かっていうと──』
そこで、翔と祥のお父さんの日記は終わっていた。ふっと隣を見ると、下唇を噛んで肩を震わせている若葉ちゃんがいた。