crocus


翔に大学ノートを丁寧に手渡してから、よしよしと若葉ちゃんの頭を撫でた。

「俺たちは…しばらく後悔から立ち直れなかった。手作りのショートケーキをご機嫌取りだって、愛されてなかったって勘違いしたまま、最後のときも、ろくに感謝の言葉も伝えてないんだ」

こういう時に限って、誰かの心を救いたい時に限って、言葉はなにも浮かばない。近くに散らばっているのは、どこかで聞いた使い古したフレーズばっかりだ。

誠吾が喉のつっかえに悶えていると、いきなり祥がゴクゴクとコーヒーをイッキ飲みした。覚悟を決めた2つの瞳が、誠吾をまっすぐ見つめる。

「だからせめて…父さんが叶えたかった夢を俺らで実現しようと思った。それから、父さんを勘違いしていたばかりに、俺たちが不必要に傷つけた大事な友達に謝りに来たんだ」


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