crocus

椅子をガタガタと鳴らし、祥が素早く立ち上がると、翔もそれに続いた。

「誠吾。本当に…ごめん!」

スッと頭を下げた2人は、微動だにしなくて、一向に腰を元に戻さない。

そうして、誠吾自身も長年に渡り根付いていたままだったシコリを、取り去るときが来たと思った。

若葉ちゃんを見れば、涙で目を潤ませながらも、一度確かに頷いてくれた。

そして誠吾の手は、少し冷たくて、柔らかいものに包まれた。いつの日かと同じように、ギュッギュッと、それがエールを送ってくれる。

それ…つまり若葉ちゃんの手を誠吾も握り返して、椅子から腰を上げた。

「ボクの方こそ、卑怯なことして……ごめんなさい!」

気を抜けば、へたへたと座り込んでしまいそうだった。

誠吾が伝えたかったのは、この言葉に尽きた。なんて単純明快なものだったのだろう。

ずっとずっと誠吾の中で、渦巻いていた後悔の正体は、2人にショートケーキを作ったことでも、持って生まれた奇妙な力の存在でもなくて、あの時に傷つけたことを素直に謝れなかったことだった。

その事を気づき、吐き出した想いは、翔と祥2人の頭を上げさせた。

「ははっ」

「へへへっ」

長い時を経て、やっと本来の笑顔が自然に出た。4月7日、校門前にいる3人の時計の針がようやく動き出した。もう止めるものか。

言葉は時に凶器。
一生涯付き合うことになるときもあるだろう。
だけど、癒せるのも言葉だったりするんだ。

捉え方は人それぞれで、だからこそ、言葉は大事に使わなくちゃいけない。

誰より一番近くで聞いているのは、自分自身だ。大切なのは、どう思うか考えるより感じること。

もし凶器として使用したなら、やはり同じ使用者にしか治療出来ない部分がある。

そのことを身を持って経験した誠吾は、声帯を震わせ響かせる言葉に責任を感じながら、翔と祥に尋ねた。

「お父さんが、いちごをみんなで作りたいって書いてたけど…、その理由は分かった?」

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