crocus
「けーいすけ。…この皿、持って行っていいか?」
いつの間にか厨房の入り口に立っていた恭平の言葉に、ハッとして視線を彼女から逸らした。
恭平は何も言わない。はっきりと見ていたはず。むしろ遮るために話しかけてきたんだろう。
「あぁ…うん、お願い」
恭平は口角だけを上げた表情で1度頷き、確かちえりさんという人たちのテーブルへ向かった。
あの子を連れてきたのは恭平だ。そんなこと一々咎めていたって、ただ1人でいじけている様に受け取られることだって分かってる。
だけど、女という生き物自体が大嫌いなんだからしょうがない。
琢磨、恭平、誠吾と単純な3馬鹿から徐々に丸め込んで、自分の居場所を着実に作っているあの子が笑っているだけで、苛立ちが込み上げてくる。
いつか裏切るに決まっている。
信用したら負けだ。
僕だけは、絶対に領域に踏み込ませたりしない。弱みを悟らせたりしない。