crocus


背中で2人の声を聞いて、静かに扉が閉まる音がした瞬間、力なく膝から落ちた。

「…あんなことされたのに、僕を庇うなんて、本当にめでたいや」

ポケットからコロンと落ちた砂時計は、壁際まで転がった。

横向きに倒れたままの砂時計は、当然砂を落とすことはない。

時間の流れを忘れたそれは、自分自身のように思えて、恵介はギュッと拳を握り締めて、爪を手のひらに食い込ませた。

深く息を吸い込めば、彼女の残り香が鼻を掠めた。

手首の細さ、体の軽さ、髪のツヤ、目ヂカラ、手の温かさ。そんな彼女を表す要所、要所を思い出している自分に虫酸が走った。

もっと、もっともっと厳重に、頑なに何重にも鍵を掛けよう。

あの子は、紛れもなく大嫌いな『女』だ。ほだされたりなんかしない、今度裏切られてみろ。後悔するに決まっている。


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