crocus
そんな訳で若葉は事情をよく理解しないまま、とても楽しそうな女性の背を見つめていた。
「さ、行くわよ?」
パチンとウィンクして見せた女性は、バーンと勢いよくリビングの扉を開けた。
体を傾け、ひょこっとリビングを覗いてみれば、思い思いの場所でくつろいでいた5人の店員さんが硬直していた。だが、すぐさま見事に全く違う反応をしてみせた。
「お帰りなさい、オーナー」
「オーナー…?」
「げっ、オーナーじゃん……」
「うわぁーい!オーナーだー!」
「……おかえり、変態」
律儀だったり、喜んだり、暴言を吐いたり……。返答だけでも個性が伺えるなぁ、と感心した若葉は、はたと全員の言葉を反芻する。
……この人がオ、オーナーさん!?
思わず後ずさりしそうになった若葉は、オーナーだという彼女にぐいっと肩を押され前に出された。
「……あれ、若葉ちゃん?」
「若葉!?」
「ど、どうも……」
きょとーんとしている上田さんや驚く琢磨くんに、それはそうだよね、と思いながら頭を下げた。
「あら?知り合いなの?」
「し、知り合いといいますか……えっと……」
ついさっき涙でお別れしたばかりです。