crocus
可燃物入れに生ゴミとなってしまったパスタを心苦しい思いで投入した。
「もったいないな…」
素材の生産者や、貧困に悩む国の子供達、会ったこともない人達がぼんやり浮かんで、食材以外の苦労や苦悩も粗末にしてしまったように思えて、心の中で謝罪して反省した。
もうこんな失敗するものかと誓いを立てていたところで、勝手口の扉が開いた。
息を切らし、必死な形相でこちらを見るのは雪村さんだ。手には救急箱を携えている。
「橘さん!破片で手を切ったんじゃ…、あっ!やっぱり!早く止血しないと」
ポニーテールを揺らし、パタパタと駆け寄ってきた彼女は、恵介の手に優しく触れた。
屈んで救急箱を漁る彼女を他人事のようにぼんやり眺めていると、されるがままに消毒液を垂らされ、包帯をグルグルと巻き付けられていた。
彼女は何も言わない。ただ真剣な面持ちで、まるで自分のことのように治療している。
「…パスタを無駄にしちゃった」
無意識に出た気弱な言葉に一番驚いたのは、恵介自身だった。弱みを見せないと思っていたのはどこの誰だっただろう。慌てて訂正しようとした恵介だったが、笑顔の雪村さんと目が合い言葉に詰まった。
「たくさんモノが溢れる日本で、惜しまれたパスタさんは幸せですね。今の気持ちを大切にすることが大事だと思います、きっと」
最後にもう一度笑って見せた彼女は、また視線を恵介の指先に戻した。
励まされてしまった。年下の女の子に。
素直に受け取る僕も僕だ。彼女から放たれる純粋なオーラにあてられてしまったんだろうか。
なんだか『女』というよりも、『少女』という雰囲気が、僕の警戒心を鈍くさせるのかもしれない。