crocus
流れる沈黙の中で田辺さんの若干の苛立ちを感じ、そろそろ若葉の危険信号が点灯しようとしていたところで、女性の声が割って入った。
「週刊現社論の新名です。少女誘拐疑惑でお宅の会社名を乗せましょうか?」
凛とした声に聞き覚えがあり、振り返ると、そこにいたのは橘さんのお母さんだった。肩に革カバンをかける橘さんのお母さんは自分の名刺をかざし、臆することなく田辺さんを睨み続けている。
一触即発の緊張感漂う空間で、先に言葉を発したのは田辺さんだ。
「……はぁ、警察気取りのマスコミはこれだから。まぁ……いいでしょう。今日のところは引き下がります。邪魔が入ったと報告させていただきますがね……新名さん?」
「結構です、構いません」
腰に手を置き仁王立ちする橘さんのお母さんはすごく美人で、凄む表情はとても迫力がある。
車に乗り込んだ田辺さんは極めて冷静に「ではまた」と言い捨て、車を発進させた。
また……、ってまた来るのだろうか。