crocus
その晩、若葉は指定された待ち合わせ場所のファミレスに1人で待っていた。これから大事な話があるのにも関わらず、高校生の時以来のファミレスに子供のように胸が高鳴ってしまう。
ほんの2ヶ月前まで高校生だったというのに、随分前のように思えるのは、日々の充実した忙しさのせいだろうか。
そんなことを、遠くの角の席に座るカップルを見ながらぼんやり考えていると、その視界がいきなり革バックに遮られた。
パッと意識を戻し、視線をバックから上の方になぞるように見上げると、肩で息をする未久さんがいた。急いで来てくれたのだろう、少し髪も乱れている。
「ごめんねっ…?ハァッ…タクシーで来る途中に渋滞に捕まっちゃって、…っもう待てないから、走ってきた」
「えぇ!?大丈夫ですか?い、今、水持ってきますから!座ってください」
「うん、ごめんっ…助かる!」
ドリンクバーへと向かう最中、未久さんの足元を見るとハイヒールを履いていた。どれだけの距離を走ったのだろう。この靴で走れるなんて、キャリアウーマンと呼ばれる人の情熱を垣間見た気がした。