crocus

若葉が水が入ったグラスを手渡すと、未久さんは口元で豪快にグラスを傾けた。

唸る喉越しの音が炭酸のCMのように聞こえて、ただの水がとても美味しそうに思える。

グラスをコツッとテーブルに置き、お腹の中の空気を一気に吐き出した未久さん。今度はもっとジャンルを絞って、ビールのCMのような爽快さが伝わってきた。

「はぁ~……生き返ったぁ……。ありがとうね、若葉ちゃん」

「いえ!私は何も!お仕事お疲れ様でした」

「へへへー!ありがと!まぁ……このあとも仕事が残ってるんだけどね。今日は徹夜かも」

とてもハードそうだけど、目を輝かせている未久さんは、やり甲斐を感じていて、仕事が大好きな様子が体全体から満ち溢れている。

「それで……お願いしたいことって何か聞いてもいいですか?」

若葉が用件を遠慮がちに尋ねると、未久さんの表情が一瞬固まる。そして少し俯いたまま、氷だけが残るグラスをゆっくりクルクル回し出した。

「ねぇ……若葉ちゃん。私、43歳なの」

「えぇー!!!」

話題の意外性もそうだけれど、未久さんの年齢を聞いて、つい大声で叫んでしまうほど驚いてしまった。

たしか恵介さんが22歳だと聞いたことがあるから、確かに未久さんがその歳でもおかしくない。

だけど肌ツヤといい、活き活きとしたタフさがグッと若々しさを引き立てていて、20代だと言われても疑わないかもしれない。


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