crocus
本格的に動き出した未久さんの夢を応援してくれる人もいれば、子供がいながら昼夜がない仕事に就いたことで冷ややかな目で見る人もいたらしく、中でも旦那さんとの間では会話らしい会話も出来なかったそう。
子供にとって両親が仲のいい姿を見るのが、嬉しいに決まっている。そんな当たり前のことすら出来ない自分を、橘さんの寝顔を見ながら何度も泣いて責めた。
それでも頑張れたのは、橘さんとの約束があったから。将来の光景を想像することで、何とか保てた精神力だった。
そして1年後、大きなチャンスが未久さんに巡ってきた。それは海外の紛争地域に行って、命の尊さや、紛争がもたらす生々しい実情を日本に伝える仕事。
でもその期間は半年以上で、間違えれば帰ってこれない危険性を伴っていた。
もしかしたら橘さんを悲しませるかもしれない。そう考えるだけで、眠れない日々は続いたが、決断の時は迫っていた。
悩みに悩んだ未久さんは、思いきって橘さんに打ち明けた。今思えば、橘さんに判断を委ねるような酷いやり方だったと未久さんは強く後悔しているようだった。
でも、橘さんが言ってくれた一言で未久さんは戦地へ赴く決心が着いた。それは、子持ちで働く女性にとって、みんなが嬉しく誇らしくなれる言葉だと思った。
それから出発の日になって、1人空港で待っていた未久さんに、旦那さんから電話が入った。搭乗時間だったことから、未久さんは中継地点に着いてから、かけ直すことにしたという。
実際、内心では『きっと冷徹な言葉で罵られるかもしれない』そう思う自分もいたという。
今となっては言い訳に過ぎない、と言う未久さんは見ているこちらまで胸が締め付けられる笑顔で言った。