crocus
「そして偶然再会したのが、昨日のこと。本当にけいが、シェフになっててビックリしたけど…すごく嬉しかった」
上気した頬を染めて未久さんは、すっかり冷めているであろうコーヒーを啜った。
「橘さんには…会われないつもりですか?」
「本当のことを言うと会いたいし、抱きしめたいし、愛してるよって直接言いたい。けど…やっぱりどんな顔して会えばいいのか…。それに『母親はいません』って言われちゃあね…」
現実は複雑でやるせない思いばかりだ。赤の他人なら、なおさら無力だと思い知らされる。今だって、経験も少ない18そこらの小娘には、なんと言えばいいのか分からない。
「ごめんなさい、若葉ちゃん。あなたにそんな顔させたかった訳じゃないのよ?ほら…当初の目的はお願いを聞いてもらいたいだけだから」
今は未久さんの笑顔が心地いい。こんな時に逆に気を遣わせてしまったことを反省し、なるべく声のトーンを上げて尋ねた。
「そのお願いって何ですか?私に出来るでしょうか?」
「大丈夫。ただ、これをね、けいに渡して欲しいの」
未久さんがバックから取り出したのは、白い包装紙に包まれた長方形の箱形のもの。手渡されると見た目より、やや重さを感じた。