crocus
若葉はゆっくり伸ばしていた腕を元に戻した。
「分かりました。責任を持って橘さんに渡します。でも…絶対に無事に帰って来てくださいね?」
「ありがとう。ありがとう。…やるだけやって、帰ってくるからね」
泣くもんか。
泣くもんか。
何度も胸の内で唱えて、自分に鞭を打った。未久さんの覚悟の前で流していいものじゃない。誰より一番、辛いのは未久さんなのだから。
愛情、責任、約束、夢、覚悟…いろんな想いが込められていると実感すると、手に持つ箱がより一層重く感じられた。
それから、しばらく橘さんと未久さんのエピソードや、若葉自身のこと、クロッカスの様子について語れば、未久さんの次の案件へと向かう時間になった。
タクシーに乗せてもらい、クロッカスより少し離れた場所で降ろしてもらった。
結果的には、若葉と未久さんが会っていたことは橘さんに知られることになるけれど、今2人が直接対面しては元も子もないから。