crocus
「ごめんね?ちょっと今、若葉お姉ちゃんいないんだけど…どうしたのかな?」
誠吾が女の子に近づいて、視点が同じ高さになるように床に膝をついた。
「えっとね…若葉ちゃんは買い物帰り途中に、公園で花の冠を作ったりして、みんなと遊んでくれてるの」
なんとなくだが…複数の子供達に強引に公園に引き込まれるも、帰る頃には誰よりも楽しんでいる雪村さんの絵が容易に浮かんでしまう。
「それで…今度、結衣のパパとママの結婚記念日ためにブーケを作りたいって言ったら…、お姉ちゃんがお花を用意してくれるって言ってたんだけど…」
みるみる内に女の子の表情が暗く沈んでいく。それもそうだろう、楽しみにしていた約束を守ってくれる相手がいないのだから。
出来ない約束をこんな小さな子供とするなんて、まさにあの人と一緒じゃないか。
女の子の悲しむ姿と、昔の自分が重なって見えようとした時、琢磨が何かに気づいた。
「あっー!!そっか!結衣ちゃん!結衣ちゃんね!ちょっと待っててー」
慌てて店内の裏口から出た琢磨が、2階へと続く階段を強く踏み締める音を響かせた。
1分もかからない内にまた同じような音を鳴らして、店内に戻ってきたが、さっきと同じではないのは琢磨の手の中だ。
「わりぃっ!寝惚けてて、昨日の夜中に若葉にいろいろと頼まれてたの忘れてたっ!」
眉を寄せて詫びる琢磨は、短く切られた色とりどりの花と、数種の包装紙を持って結衣ちゃんという女の子の元へと歩いていく。