crocus
その後、クロッカスのお客さんの中にも数人が雪村さんと約束を取りつけていて驚いた。
「若葉ちゃんはハーブにも詳しくてね、睡眠不足に効く調合をしてくれたお茶をもらいに来たのだけど…」
と言うおばさんに、琢磨が雪村さんから受け取ったカゴから、名前が書かれた袋を探し出す。
「家庭園芸をしているのだけれど、若葉ちゃんがオススメの肥料があるから用意してくれるって…」
「若葉お姉ちゃんが、私が作った押し花で、しおりを作ってくれていると思うんですけど…」
琢磨に頼んだのは、同じホール業務だからだろう。全て約束通りのものがカゴの中に用意してあった。そして依頼していた人達は帰り際、決まって「ところで若葉ちゃんは?」と言って彼女の所在を気にかけていた。
その声が聞こえる度に、僕の胸がドクンと跳ね、誰に責められている訳でもないのに身を隠したくなった。
僕にとっては迷惑なお節介を焼く雪村さんだけど、彼らにとっては需要のある愛され看板娘のようだ。
「しっかし…いつの間に商店街の人達とこんな仲良くなってたんだろうなぁ」
「若葉ちゃんらしいよね。人のために動くことを苦に思わない感じ♪」
「そうそう。なんか知らないけど、痒いところに手が届く気遣い屋だよな。基本、人が好きだもんな…若葉ちゃん」
金曜日、夜の部を控えたクロッカスでは、楽器の調整をしながら三馬鹿が雪村さんについて話していた。