crocus
2階には長い廊下、そして左右の壁には向かい合うようにして扉が6つあり、その一番奥の右側の扉の前でオーナーさんは足を止め、若葉の方を真剣な面持ちで見つめた。
「朝、私が言ってた仕事内容……覚えてる?」
「えっと……お花の管理ですよね。……あのゼラニウムが咲く花壇の管理ですか?」
「それもお願いしたいけど……私が言うのは、デリケートで面倒臭くて、しょうもないけど……ほっとけない、あの5人のことよ」
「5人……?えっ?まさか、あの店員さん達のことですか?」
そうよ、と優しく微笑んだ後、オーナーさんは少し寂しそうな顔をしてみせた。
「あの5人はそれぞれがトラウマだったり、心の傷だったり……やっかいなものを抱えてるの。若葉ちゃんには、そんなあいつらの活性剤になってほしいなって思ってるのよ」
「活性剤……」
なんだか重大な責任のように感じ、足元を見つめると自分の影の色がふっと濃くなったように感じた。
オーナーは頭上でふっと笑い、若葉の頭を優しくぽんぽんと叩いた。
「もう、そんな顔しないの!なにも『あいつらを助けてー、救いだしてー』なんてそんな大層なこと言ってるんじゃないわよ?変わりたいなら、それはあいつら自身が乗り越えることだもの」
でもね、と続けるオーナーは、ぎゅっと若葉を抱きしめた。
「……そばにいてくれるだけでいいのよ。それだけで救われた人間もいるんだから……」
「……オーナーさん?」
肩をぐっと押され体は離れる。