crocus


今もジャーナリストをしていると聞いても、それは自分の夢を叶えただけ。フレンチナイフのことだって再会したから思い出しただけのお詫びの品に思っていた。

その時、恵介は母親との会話をふと思い出した。

"けい、お母さんね…もしかしたらけいを悲しませることになるかもしれない場所に取材に行かなくちゃいけないの。けいは、どうしてほしい?"

"会えなくなるのは嫌だけど…、夢を追いかけるお母さんカッコいいよ。だから応援するよ"

それは紛争地域に赴くことを迷っている母さんにかけた言葉。

なんだ…僕自身が母さんの背中を押したんじゃないか。

空港に向かう途中、事故に遭って母さんがいない寂しさと苛立ちで今まですっかり忘れていた。

僕のことなんかどうでもいいんだと、不貞腐れて急いで病室に駆けつけてくれた母さんにひどい態度をとった。

母さんの居場所をなくしたのは、僕だ。そしてガキっぽさがそのまま残る僕は、また性懲りもなく1人の女の子を追いつめている。


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