crocus
「恵介?顔色が悪いぞ」
「えっ…あぁ、うん。ちょっと…ね。…ねぇ…僕ってガキっぽいのかな?」
要はきゅっと眉をしかめた。いきなり何を言うのだと顔に書いてある。そして、さらりと返事した。
「今頃、気づいたのか。クロッカスの中じゃ、幼稚と言えば誠吾かお前かだろう」
ふんっと鼻をならして、憎たらしく口角を上げて笑った要。おかげで、こめかみの血管がピクピク動く程度には平静さを取り戻せた。
「誰があの誠吾と同じなのさ。少なくとも琢磨と並ぶくらいじゃない?」
厨房からカウンター内に戻ろうとしていた要が振り向いて何か小言でもいうかと思いきや、鳴り響いた電話の呼び鈴に防がれた。
「俺が出よう」
何回目かの呼び鈴の途中で、要がレジの横にあるクロッカスの固定電話の受話器を取った。
恵介、ポケットに手紙と砂時計を入れて、厨房の片づけの作業に戻った。
ここが終わったら、恭平達に電話して状況を聞こう。それから、雪村さんの居場所を特定して、迎えに行かなくちゃ。
もういいよって、ちゃんとフレンチナイフも受けとるし、母さんとも話してみるよって、そして……帰っておいでって…誰でもない僕が言うんだ。
ところがそんな僕の計画は、要の大声で先伸ばしになることになる。
「はっ!?父さんが倒れたから、迎えに行くって……ちょっ…いえ、結構です。こちらから向かいます…はい、…はい…それじゃ」
ゆっくり受話器を元に戻した要は歯を食いしばって何かを堪えていた。