crocus
聞こえた話だけで推測し、要に話しかけた。
「要…、病院に行くにしても車がないよ。タクシーで行くの?」
「いや、近くのオーナーの自宅に俺の車を置いてある。それに乗って、父さんの会社に行く。そこで今はプライベートドクターが診ているらしい」
「プライベ……って、そっか社長だもんね、要のお父さん。僕も一緒に行くよ」
「あぁ…助かる。今は落ち着いた運転が出来なさそうだ」
要は身仕度をすると言って一度自室に戻った。こんなにも要が感情を露にさせていることで、相当緊迫した事態であることを示している。
恵介も簡単に身支度を済ませ、要と一緒にオーナーの自宅へと走った。
時刻は18時半。
空は青空と沈みかけた太陽の赤が混ざり、紫色に染まっていて不吉な予感でざわつく胸を更に煽っていた。
恵介はポケットの中の砂時計を祈るような思いで、ぎゅっと握り締めた。