crocus

聞こえた話だけで推測し、要に話しかけた。

「要…、病院に行くにしても車がないよ。タクシーで行くの?」

「いや、近くのオーナーの自宅に俺の車を置いてある。それに乗って、父さんの会社に行く。そこで今はプライベートドクターが診ているらしい」

「プライベ……って、そっか社長だもんね、要のお父さん。僕も一緒に行くよ」

「あぁ…助かる。今は落ち着いた運転が出来なさそうだ」

要は身仕度をすると言って一度自室に戻った。こんなにも要が感情を露にさせていることで、相当緊迫した事態であることを示している。

恵介も簡単に身支度を済ませ、要と一緒にオーナーの自宅へと走った。

時刻は18時半。

空は青空と沈みかけた太陽の赤が混ざり、紫色に染まっていて不吉な予感でざわつく胸を更に煽っていた。
  
恵介はポケットの中の砂時計を祈るような思いで、ぎゅっと握り締めた。

< 319 / 499 >

この作品をシェア

pagetop