crocus

オーナーさんの絞り出したような切ない声が心配で、若葉が見上げると、オーナーさんと目が合っているようだけど、どこか違う場所を見つめているようだった。

はっと我に返ったオーナーさんは、ひとつ瞬きをすると、いつもの調子に戻った。

若葉の両肩に手を置いたオーナーさんは、若葉の背丈に合わせて屈み、今度はちゃんと目を合わせると真剣な表情でオーナーさんの思いを教えてくれた。

「本当は私がそばにいたいところなんだけど、私自身が海外に買い付けに行ったり転々としてるものだから、そうもいかなくて……」

「オーナーさん……」

哀愁漂うオーナーさんを見て胸がぎゅっと掴まれたような感覚に顔を歪めた。

おどけたり、突拍子もないことを言うオーナーさんだから、本心はなかなか掴めないけれど、今はとてもふざけて同情を引いてるようには思えない。

そして朝のオーナーさんの言葉を思い返した。

"どうしても枯らしたくないのよね"

あの言葉だって冗談ではなくて、オーナーの真意だったはずだ。

従業員として彼らのそばにいて、自分にも何か出来ることがあるのなら……、自分を必要としてくれる人が目の前にいるのなら、迷うことなく手を伸ばしたい。

つい昨日まで、居場所を求めていた若葉にとって『そばにいるだけでいい』というオーナーさんの言葉には心から満たされていく思いでいっぱいになった。


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