crocus
1つ大きく深呼吸をし、3年ぶりに会う人物がいる部屋の扉をノックした。すぐに低音の返事が帰ってくる。
「入りなさい」
冷たい金属のドアノブを回し、扉を開くと、まず懐かしい花の香りと再会した。
そして大きな焦げ茶色の机の向こうで、書類に目を通している人物を見て、嫌でも体が緊張で強ばった。
「お祖父様、若葉です。お話ししたいことがあって、帰ってまいりました」
お祖父様は書類から目を離し、険しい表情で若葉を見据えた。それだけで若葉の呼吸は、か細くなる。
「おかえり、若葉。高校を卒業したのは3月なのに、随分と寄り道をしたようだな」
クロッカスで過ごした日々を寄り道と言われ、喉の奥でジュッと熱い唾液が溢れた。
「まぁ、いいさ。お前がどこで、何をしていたかなんて調べはついていた。そろそろ、お前を連れ戻そうとしていたところだ。まさか自分の足で帰ってくるとは、手間が省けた」
もしかしたら雪村財閥の情報網では既にバレているかもしれないと思っていたが、本当にその通りだった。
そして、もう少し戻りが遅ければ、強引に連れ戻され、クロッカスのみんなに迷惑をかけていたかもしれないと思うとゾッとした。
まぁ…今も急に姿を消したことで、家事等の迷惑をかけてしまっているのだけれど。