crocus
お祖父様はのそりと立ち上がり、色の和服の両袖口にそれぞれ手を入れて腕を組みながら、こちらへと歩みを進める。
「…それで、話とは何かな?」
4、5歩分前で止まったお祖父様は、若葉が帰宅した理由をも悟っているかのような目で尋ねてきた。
心を覗き込まれているような目が、昔から苦手だ。何をしようともそれはお祖父様の手のひらに上での出来事のような気がするのだ。
「…高校卒業後、私にお父さん達の花屋の土地の権利を譲ってくださる話を覚えていらっしゃいますか?今、クロッカスというカフェで接客や経営理念を学び、開店資金も貯めています。ですから…」
「はて、なんのことかな?最近、物忘れが激しくてね。いや、なに、文書での誓約が残ってるなら話は別だが」
「そんなっ!だって、確かに高校入学前に…っ」
薄々そんな風に、はぐらかされる気はどこかでしていた。
だけど…この人は優しかったお母さんの血の繋がった実の父親なのだ。
例え、自分が駆け落ちした末に生まれた子供だとしても、孫との約束は守ってくれると信じたかった。