crocus

橘さんに未久さんから預かった大切な想いが込められたフレンチナイフを受け取ってほしい。

そのためには、まずは自分が後回しにしてきた問題と立ち向かって、身綺麗にしてから改めて2人の思いに真正面から対峙したかった。

だけどそんなのは押し付けがましい言い訳で、2人に対して失礼だ。結局は何も解決出来ない無力な18歳の子供だ。偽善者と言われたって仕方がない。

無責任な行動をしておいてクロッカスに戻ることは、もう無理だろう。みんなが許してくれたとしても、その優しさに甘える自分が許せない。

だけどお父さんとお母さんの土地を譲ってもらえないと分かった以上、ここにいる理由もない。

とても悔しいけれど…土地はあそこじゃなくてもいい。どんな環境だろうと、私自身が花屋を開くことが夢を叶えて、お父さん達の意思を継ぐことになるはず。

そう思った若葉は、お祖父様と話すのはこれで最後になるかもしれないと覚悟し、口を開いた。

「土地の話がでたらめだと分かった以上、お祖父様が縁を切った母の娘である私には、ここにいる理由がありません。だから出ていきます。今まで育てていただいて、ありがとうございました」

深く一礼する直前、お祖父様が笑いながら言い放った。


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