crocus
crocus 05
***
「ここでいい」
「うん、ここで待ってる。何かあったら携帯に知らせて?あと…お父さんにお大事にって」
「…あぁ。まともな会話が出来れば、な」
恵介を車に残し、コンクリートで囲まれた地下駐車場に靴の音を響かせる。駐車スペースは、だいぶ空白が多い。
エレベーターに乗り込み最上階へのボタンを押した。透明な箱は徐々に高く上昇し、電気が灯りだした地上の星を見下ろした。
あの父親も歴とした人間だったようだ。数年ぶりに対面して、どんな会話をするのだろうか。むしろ当時のまま会話自体、皆無かもしれない。
エレベーターは目的の場所へと到着すると、短い機械音で知らせた。ゆっくりと両サイドから開いた扉の向こうには、ただ1つの部屋へ続く直線の廊下があるだけだ。
扉の正面へと歩み、チャイムボタンを押した。会社の最上階に自宅を設けるところが、なんとも仕事人間の父親らしい。
24時間、彼の脳内を占めるものは会社経営のことだけだということが顕著に表れている。
「要様ですね。お待ちしておりました」
父親の秘書を10年前から務めている桜澤さんの声が、インターホンから聞こえた後、扉のロックが解除される音がした。
そしてゆっくりと扉が開いた先に、桜澤さんがドアノブを左手で押し、空いてる方の手をしなやかに滑らせて入るように促した。
「お久しぶりです。桜澤さん」
「えぇ、本当に。要様もお変わりないようですね」
穏やかな笑みを浮かべた桜澤さんは男性の働きを凌ぐ女性秘書だ。歳は、50を手前にしているとは思えないほど美しさを保っている。
「ここでいい」
「うん、ここで待ってる。何かあったら携帯に知らせて?あと…お父さんにお大事にって」
「…あぁ。まともな会話が出来れば、な」
恵介を車に残し、コンクリートで囲まれた地下駐車場に靴の音を響かせる。駐車スペースは、だいぶ空白が多い。
エレベーターに乗り込み最上階へのボタンを押した。透明な箱は徐々に高く上昇し、電気が灯りだした地上の星を見下ろした。
あの父親も歴とした人間だったようだ。数年ぶりに対面して、どんな会話をするのだろうか。むしろ当時のまま会話自体、皆無かもしれない。
エレベーターは目的の場所へと到着すると、短い機械音で知らせた。ゆっくりと両サイドから開いた扉の向こうには、ただ1つの部屋へ続く直線の廊下があるだけだ。
扉の正面へと歩み、チャイムボタンを押した。会社の最上階に自宅を設けるところが、なんとも仕事人間の父親らしい。
24時間、彼の脳内を占めるものは会社経営のことだけだということが顕著に表れている。
「要様ですね。お待ちしておりました」
父親の秘書を10年前から務めている桜澤さんの声が、インターホンから聞こえた後、扉のロックが解除される音がした。
そしてゆっくりと扉が開いた先に、桜澤さんがドアノブを左手で押し、空いてる方の手をしなやかに滑らせて入るように促した。
「お久しぶりです。桜澤さん」
「えぇ、本当に。要様もお変わりないようですね」
穏やかな笑みを浮かべた桜澤さんは男性の働きを凌ぐ女性秘書だ。歳は、50を手前にしているとは思えないほど美しさを保っている。