crocus
優雅でありながら母性を感じる桜澤の温かさをもってしても、あの父親の暴君ぶりには随分手を焼いているに違いない。
「…それで、父は?」
「今、寝室でお休みになっております。医師に診てもらったところ、過労だということで」
「…ふっ、あの人にお似合いの症状ですね」
「要様!」
つい漏らした嫌味に、桜澤さんは昔のように眉をしかめて短く注意してきた。決して考えを押しつけたりしないけれど、親子の不仲を心配してくれているのだろう。
しかし桜澤さんが着任する前の出来事で、要の父親に対する敬意や尊望、信頼は地に落ちていて、溝ばかりを深める一方だ。
言ってしまえば、呼び出されたところで父親を気遣う思いすら起こらない。