crocus
瞳だけをユラリと動かし、要の存在を確認すると、特に驚くことなく、また瞳を天井へ向けた。
「…こんなところで何をしている」
「桜澤さんから、あなたが倒れたと一報を受けました」
「余計なことを……。帰れ。俺はいつお前が俺を陥れてくれるのか楽しみにしているというのに…。そろそろ待ちくたびれるぞ」
「…それだけの口が叩ければ問題ないですね。言われなくても、帰ります」
いつもと変わらない父親の姿に、気づいてはいけない感情が芽生え、それを急いで刈り取った。触れてしまえば、桐谷要はいなくなる。
椅子から立ち上がり、恵介が待つ駐車場へと帰ろうとするも、いきなり開いた扉に足を止めた。
そこにはハァハァと息を切らす桜澤さんの姿。彼女がこんなに取り乱すなんて、社内で相当な事態が起こったのか。
「どうした。桜澤」
父親が怪訝な声音で伺いを立てると、桜澤さんは父親の側へ行き、要に聞こえないように耳元で話しをした。