crocus
別に父親を助けるためではない、桐谷要本人に了承もなく進められているという事実が、些か気に入らないだけだ。ボンボンの息子だと、見くびってもらっては困る。
社長室の前まで行くと、話し声が微かに聞こえる。しかしこの調子で行けば、後数分で父親の怒りが沸点に達するだろう。
彼が一度NOと言ったものは、どんなに粘ろうとYESにしたことがないくらい、妥協の二文字が嫌いだからだ。
声を荒げずとも、社長じゃなかろうとも、俺が収めて見せると意気込んで扉を強く開いた。
しんと静まる室内にいる人物達は一斉に要の方へ視線を向けた。
中にいたのは3人。皮ソファーに腰かける父親と、向かい側に和服を着た白髪頭のややふくよかな爺さん。そして、華やかな着物を着た女性。
要はその美しく着飾る女性の存在に目を疑った。
「雪村さん!?」
「えっ?桐谷さん!」
「…要!なぜここに…。帰れと言っただろう」
そんな父親の怒鳴り声も右から左へと抜けてしまうほど、雪村さんがいることの驚きは大きかった。