crocus

周りを見渡せば真新しい家具からオーナーさんの高笑いが聞こえてきそうでブルッと寒気がした。ここにいてはいけないと、第六感的なモノが察知し、すぐさまオーナーさんの後を追いかけた。

てっきりオーナーさんは、もう下へと降りただろうと思っていたけれど、部屋から出ると、階段の手前で待っていてくれているオーナーさんの姿を見つけた。

階段の手摺に体を任せて、したり顔をしているオーナーさんだけれど、その姿を見て若葉は思った。

借金という形ではあるけれど、オーナーさんは若葉に『いなければいけない』という理由を与えてくれたのではないだろうか。

突然のことに戸惑っているのは、なにも若葉だけではなく、他の店員さん達だって同じだ。

さっきからそんな店員さん達に対して、申し訳なさを全面に出していた若葉を見て、存在しなくてはいけない権利を与えることで、少しでも罪悪感でいっぱいの心を軽くしてくれたのだと。

前向きすぎかなとも思うけれど、そんな不器用なやり方をする人物を他にもう1人知っていて、重ねてしまうのは仕方ないと諦め、若葉はオーナーさんの元へ駆け寄った。

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