crocus

「まぁ、その万が一があったら秘書の桜澤さんが連絡して教えてくれるでしょ?」

「あっ…!…っ」

恵介の言った『桜澤さん』というワードに反応した雪村さんは声を出した。

後ろを恵介とほぼ同時に見ると、雪村さんは罰が悪そうな表情で、すぐに口を手で覆っていた。

「恵介、運転、集中」

「分かってる。…てゆーか。何?なんか変なこと、俺言った?」

疎外感を感じているのか、いちいち確認するのも面倒なのかどちらとも取れる表情の恵介。文句を垂れながらも、しっかり目の前のハイヤーを追っている。

「ごめんなさい…橘さん、桐谷さん」

恵介の知らない内輪ネタな上、俺の親近者の事情に反応したことを、怒らせたと思ったのだろうか。髪に刺している簪の細工がよく見える程、項垂れる雪村さん。

無意識に腕を伸ばし、落ち込む彼女の髪型を崩さない程度にくしゃっと頭を撫でてしまった。

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