crocus
「あれが…例の秘書だったやつだ」
「え?桜澤さんの前にいた人で、要のお父さんに………っていう?」
「あぁ、そうだ。間違いない」
「なんで、要のお父さんの会社にいたのさ?」
「分からん。だから追っている」
小さく「なるほどね」と呟き、納得した様子の恵介は鍵を回し、車のエンジンを停止させ、静かに目を瞑った。事情を聞いても尚、付き合ってくれるのだろう、有難い。
「あの…桐谷さんがお父様と不仲なご様子だったのは、その秘書さんと関係が?」
「ははっ、君って直球ストレート!」
恵介が愉しそうに笑ってみせると、雪村さんはまた、しまったとでも言うように口を手で覆った。
「待つ間、雪村さんにも話すよ。随分、巻き込んでしまっているしね」
久し振りに話す過去の話。ハイヤーに乗り込む人物を見逃さないよう前を見たまま、記憶を言葉にしていった。