crocus
◆◇◆◇◆◇◆◇
「お母さん!要連れて来たよー」
「茜ちゃん、要くんいらっしゃい」
母さんが入院して7年が経っていた。要は12歳。姉は16歳。
つまり、宣告された確率を乗り越えて2年が経過していた。
母さんは本当に重い病気を患っているのかと疑うほど、綺麗な人だった。確かに細く白い肌は儚げだったけれど、それすら美しさを引き立てていた。
命は綺麗だと思った。
だから、12歳の要にはそんな母さんに見つめられると恥ずかしかった。幼い頃から会える場所は病室だけだったし、上手な甘え方もいまいち分からなかった。
「要、おいで?」
そんな要を悟ってか、毎回母さんは翼のように両手を広げて迎えてくれた。
「い、いいよ…。そんな子供じゃないし」
そう言うと、母さんはたちまち顔をくしゃくしゃにして、喚き出した。
「うぇ~ん!要が、要が反抗期だぁ~!小さい頃は『ママのおむねフワフワだね』って言ってたのに~!え~ん!茜ちゃ~ん!要がツンデレだよ~」
「デレたことないよ…僕」
布団の中でボフボフと両足をばたつかせて、全身で駄々を捏ねる母さん。どっちが子供か分からない。
「まぁまぁ…お母さん落ち着いて。要も照れてんじゃないよ。ムッツリか?」
「なっ!?違うよ!もう……分かったよ」
したり顔の姉さんを一睨みして、喜ぶ母さんの側に行くと、優しく強く抱きしめられた。
すると母さんからシャンプーと消毒液の匂いがした。