crocus

体を離すと、母さんは満面の笑みで言った。

「要、また身長伸びたね?あ~、大きくなったら彼女とかいっぱい出来るんだろうなぁ…。要はあんなことや、そんなことするんだろうなぁ…。やだなぁ」

「…な、何、いもしない彼女の想像して凹んでるんだよ!」

母さんが未来の話をするときは、何故か喉がぎゅっとする。それを押さえてから言葉にするから間が悪くなる。気づかせたくないけど、そんな時も決まって母さんはただ笑ってる。

「あれ?茜ちゃん、またお髪が乱れてるよ~?はい、こぉこ」

ポンポンとベッドの端を叩いた母さんは、姉さんに座るように促した。

「ここまで来る途中、風が強かったからかなー」

喋りながら姉さんがベッドの端に座ると、母さんは引き出しから櫛を取り出した。

頭の天辺から、スルスルと櫛が流れていく。姉さんは安心したように目を瞑っている。

「いつも茜ちゃんの髪は長くてサラサラね。きっとモテてるんだろうなぁ~」

「そんなことないよ!私…お母さんみたいに綺麗じゃないし…」

「きゃー!茜ちゃんってば!嬉しいこと言ってくれちゃって!」

赤らむ頬を両手で押さえて、軟体生物のようにクニャクニャ動く母さん。一通り喜び、また櫛の動きを再開させる。

「…でも茜ちゃんは本当に、可愛くて強かで優しくて…良いところを挙げればキリがないくらいに私の自慢の娘よ?もちろん、要くんも!」

ふふん、と誇らしげな顔をして鼻の穴を大きくした。

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