crocus

「ねぇ、お母さんはどうして、あんな堅物な人と結婚したの?」

要も長年疑問に思っていたことを、姉さんが訊ねてくれた。

こんなに明るくて優しくて、ちょっぴりドジでおバカな母さんが、どうして冷血で仕事にしか興味ない父さんと結婚したいと思ったのだろうか。

「んー?それはねぇ…」

コンコン。病室の扉がノックされて、母さんの話は途切れた。後ろを振り返ると、扉から看護師さんが顔を覗かせた。

ほんの一瞬、父さんかと思った。まだどこかで父さんが母さんを大切に想っているはずだと信じたいという気持ちが、胸の中にしがみついていた。

姉さんの残念そうに曇った表情を見れば、もしかしたら同じ考えなのかもしれない。

「桐谷さん、検査の時間ですので、下に移動しましょう」

「えー…」

「「えー、じゃない!」」

見事にシンクロした叱責に3人で笑った。

母さんと姉さんがいてくれさえいれば、要の世界は完璧だった。

宣告された年から、2年も持ちこたえてくれている。だから更なる奇跡が起きて、母さんが完治して、また一緒に暮らせる日が来ることも夢じゃないと思い始めていた。

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