crocus
ある日、お手伝いさんが作ってくれた夕飯を姉さんと一緒に食べていたとき、父さんが男の人を連れて帰ってきた。
ただその様子を見ているだけの要達に向かって、父さんが無表情で言った。
「父親が帰ったというのに、挨拶もなしか」
「父親には言うわよ、父親と呼べる人にはね」
「なんだと、茜!それにお前は軽音楽同好会を続けているそうだな!…ヴァイオリンはどうした!?せっかく吹奏楽で金賞の高校に入ったくせに」
「一生懸命やってる人をバカにしないでよ!お母さんは私のやりたいことを応援してくれてる!ろくに家族と関わらないくせに、上から物を言わないでよっ!」
「精一杯やりました、一生懸命頑張ってます、そんな感情論だけで、周囲に認められるような結果のないことをして、時間を無駄にするな」
「あー、はいはい。分かりました。どうせあんたにとって私達なんて、自分のステータスを上げるお飾りでいてほしいんでしょ!?」
そう姉さんが啖呵を切った時、渇いた音が部屋に響いた。
父さんが初めて姉さんに手をあげている光景を目にした。姉さんは頬を押さえて部屋を出ていった。
自分にこの人の血が流れていると思うと目眩がした。