crocus

「その時にお母さん思ったの。この人は、どんなに醜い部分でも受け止めてくれる人なんだって。この人とだったら、どんなに辛くても虹が架けられるはずだって」

そんな話も母さんらしいと思ってしまえた。「そして」と言葉を繋いだ母さんの目は、いつもよりずっと真剣なものだった。

「茜と要の命を授かった。お母さん、大好きな人と一緒になれて、こんないい子達に囲まれて、本当に幸せ。茜ちゃん達に寂しい思いをさせていることは、もちろん謝っても足りないけれど…」

「もう、それは言わない約束でしょ!」

「はーい。ごめんなさい。まぁ…慎一郎さんは口数が少ないし、不器用で、時には厳しいことも言うけれど…今すぐじゃなくても、きっと慎一郎さんが懐の大きい優しい人だって分かるはず。だから…ゴホッ、ゴホッ…ウッ…」

「お母さん!?」

「姉ちゃん!ナースコールどこ!」

突然、激しく咳き込み出した母さんの額から既に汗が吹き出していた。母さんが腕に血管を浮かばせながらきつく掴むシーツからは、生きたいという感情が滲み出ていた。

父さん…!

言い様のない不安に駈られていると、頭に父さんの顔が浮かび、慌てて公衆電話へと走った。


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