crocus
その後のことはあまり覚えていない。ただ、ぼんやりと母さんの眠る姿を見ている父さんの背中だけが思い出される。
父さんを最後まで信じていた母さんが、とても可哀想な人に思える。母さんは幸せだと言ってたけれど、点滴の跡だらけの腕を見たらどうしてもそうは思えなくて、やるせない思いが全身を包んだ。
母さんが亡くなってから、更に父さんは厳しくなった。初めは、母さんを失った辛さを、ぶつけられているのかと同情していた。けれど、それはほんの少しの間だけ。
母さんの最期の時、父さんは接待だと表して、取引先のお偉いさんとゴルフをしていたのだと、聞いた時は怒りを通り越して笑ってしまった。
それから要は中学に入学し、父親の目を盗んで、ひたすら経済学を一から勉強し始めた。
父親に大事なモノを奪われる苦しみを味わわせるため、母さんの無念を晴らすために。
それを手伝ってくれたのは、他でもない父さんの秘書だった鮫島さんだった。
時には講師、時にはキャッチボールや、ドライブに連れて行ってくれた。まるで、本当の父親のように接してくれた。親密になるのはあっという間だった。