crocus
どうしてこんな風に、見方によっては自分の会社の社長に楯突いているような危ないことをしてくれるのかと訊ねれば、
「私にも要くんと同じくらいの子供がいるから、どうしても放っておけないんだ」
と言って笑っていた。ぎゅっと抱き締められたときに、ずっと忘れていた温かいものが止めどなく溢れて泣いてしまったのを覚えている。
身近な存在の鮫島さんに、全幅の信頼を置いていた。
実の父親との会話と言えば、成績のことと、次期社長としての心構えなどを、くどくど説かれた。
"98点?どうしてあと2点が取れないんだ。社長は常に100点を求められる。わずか2点のミスが、大勢の社員を路頭に迷わせるんだぞ"
"誰も信用するな。上に立つ人間はいつも孤独なんだ"
褒めてもらえたことはなかったし、父親の目から見れば、自分は出来の悪いロボットなのだろうと思った。
息が詰まりそうなとき、決まって鮫島さんがゲームをしてくれたりや、写真について教えてくれた。
もちろん姉さんもいたけれど、毎晩部屋に籠って勉強したり、バイトをしたりの忙しい日々を送っていて、とてもゆっくり話せる時間はなかった。
鮫島さんが心の拠り所だった。