crocus
「手を引いてくださって、本当にありがとうございました。…でも、お祖父様のことが解決しない限り、いつか皆さんに迷惑をかけるかと思うと…」
「俺に言わせてみれば、雪村さんを盾に取られたままの方がよっぽど不利な状況だ。打開策ならいくらでもある。心配ない」
「…っ、私…すみません…。ありがとうございます」
…え、何この空気。
てゆうか、本当は連れ戻したかったんじゃない、要。
そうだよね、オーナーに雪村さん頼まれてたもんね。頼まれてたからってだけだよね。それ以上の理由はないよね。
あー…………えー…と、どうして僕こんなにイライラしてるんだろうか。いや、うん、仕方ない。この空気なら仕方ない。
1人問答を繰り返し、軽く錯乱していた恵介の目に意外な光景が飛び込んで来た。
そろそろとシートベルトを装着し、正面に目を凝らしたまま、2人に知らせる。
「鮫島さん、降りてきた。けど1人じゃないね」
「あぁ…。どこかで見たことがある気が…、というか誰かに似ている」
鮫島さんが運転席に座り、自分達と同世代くらいで、スーツを着た小太りの男性が助手席に乗る。そうして、ついに車が発進した。
しばらくしてから、鮫島さん達が曲がった方向へと続き、また尾行を始めた。
そうして数分後に、到着した場所に、恵介や雪村さんだけでなく、さすがの要も驚いた表情を見せていた。
そこは、複合大型施設の建設を計画している大島グループ本社だったからだ。