crocus
我に返った恵介は、急いで雪村さんの後を追いかけた。雪村さんが下駄を履いていたおかげか、すぐに捕まえることが出来た。
「きゃっ!」
腕を引っ張ると、一緒に舞った袖の模様。バランスを崩した雪村さんの小さい体は、恵介の胸の中に収まった。石鹸のようないい匂いが鼻を掠めて、見上げてきた雪村さんの瞳に引き寄せられた。
「おい!何をしてる!?」
離れた場所から届いた男の野太い声に現実に引き戻される。視線を向けると、ビルの入り口から2人組の警備員が出てきた。
「やば。雪村さん一先ず逃げるよ」
「は、はい!」
雪村さんの手を引いて、どこか身を潜められそうな場所がないか駐車場を見渡した。けれど、繋いでいた手がグンッと重たくなり、ついには離れた。
「ご、ごめんなさい。どうしても下駄のせいで足音が…」
雪村さんは下駄を素早く脱いで、足袋を地面に着けた。下駄の鼻緒を右手の指に引っ掻けて、もう一方の手で恵介の手を取った。雪村さんは真剣な表情でキョロキョロと辺りを見渡している。
「あ、なんかあそこ隠れられそうです!」
「え、あぁ…」
駆け出した雪村さんに手を握られたまま、恵介も後に続いた。