crocus

「よろしくお願いします」と、頭を下げながら、若葉はそんなことをしている自分を俯瞰で捉えてみた。

上田さんが昨夜、声をかけてくれていなかったら今ごろどうなっていたのだろうか……。

少し思いを巡らせても全く想像すら浮かばないことにゾワリと怯えると、感謝の気持ちを含めて、さらに腰を曲げた。

「昨日の今日で環境が変わっちまって大変なこともあるだろうけどさ……こうなっちまったもんはしょうがねぇ。何かの縁つーことで頑張ろうな?」

爽やかな笑顔はやっぱり優しくて、今度はグッドサインをダブルで出してくれた。すかさずオーナーさんは

「なにそれ流行んねぇーし」

と醒めた口調で言ってのける。上田さんは、ほんのり頬を蒸気させて言い返した。

「こ、これからなんだよ!わ、若葉ちゃんと広めてくし!なっ!」

そこで私に振るんですか、上田さん。

「は、はぁ……」と、肯定とも否定とも言えない返事をし、上田さんポーズと熱視線を見過ぎないように目を細め笑顔を作るものの、上がりきらない口角はヒクヒクしてしまった。


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