crocus

「分かりました。酢豚にしましょう。まぁ、やるからには厳しくいきますけど…いいよね?」

「アイアイサー!よろしくお願いします」

まずは、全て先生に任せて酢豚を作らせてみることにした。先生には「どこが悪いのか判断するため」と言ったが、本当は何をやらかしてくれるのか、おもしろそうだったからなんだけど。

さっそく肉と野菜の下ごしらえから始めてもらう。

先生は危なっかしい手つきで包丁を握り、人参を切り出した。

「乱切り…乱切り…乱切り…」

ぶつぶつ唱える先生は、包丁を縦にななめに横に動かしながら、人参を無惨な姿へと切り刻んでいく。

「先生、それ乱切りというか、乱雑です」

「うぐっ…」

素材を無下にされていくのは見るに耐えないけれど、先生がまな板に向ける視線は真剣そのものだった。

なんとか下ごしらえを済ますと、次は油を熱して切った野菜を素揚げしてもらう。

「何この本…サッと素揚げするの、『サッと』て何よ。何秒?何分?一般的なサッてなに?んも~!」

結局、先生は本当にさっさと取り上げた。野菜はぬるぬるテカテカしていて、そもそも油の温度が低すぎているようだ。

その後も、教本に文句をつけたり、味見をしては調味料を図らずドバドバ入れまくったりしながら、なんとか行程を全てやり終えた。

「師匠!味見をお願いします!」

「い、いただきます…」

料理に向かい、手を合わせて挨拶をすると同時に、食材に対して御愁傷様ですと思ったのは初めての体験だ。


< 378 / 499 >

この作品をシェア

pagetop