crocus
「分かりました。酢豚にしましょう。まぁ、やるからには厳しくいきますけど…いいよね?」
「アイアイサー!よろしくお願いします」
まずは、全て先生に任せて酢豚を作らせてみることにした。先生には「どこが悪いのか判断するため」と言ったが、本当は何をやらかしてくれるのか、おもしろそうだったからなんだけど。
さっそく肉と野菜の下ごしらえから始めてもらう。
先生は危なっかしい手つきで包丁を握り、人参を切り出した。
「乱切り…乱切り…乱切り…」
ぶつぶつ唱える先生は、包丁を縦にななめに横に動かしながら、人参を無惨な姿へと切り刻んでいく。
「先生、それ乱切りというか、乱雑です」
「うぐっ…」
素材を無下にされていくのは見るに耐えないけれど、先生がまな板に向ける視線は真剣そのものだった。
なんとか下ごしらえを済ますと、次は油を熱して切った野菜を素揚げしてもらう。
「何この本…サッと素揚げするの、『サッと』て何よ。何秒?何分?一般的なサッてなに?んも~!」
結局、先生は本当にさっさと取り上げた。野菜はぬるぬるテカテカしていて、そもそも油の温度が低すぎているようだ。
その後も、教本に文句をつけたり、味見をしては調味料を図らずドバドバ入れまくったりしながら、なんとか行程を全てやり終えた。
「師匠!味見をお願いします!」
「い、いただきます…」
料理に向かい、手を合わせて挨拶をすると同時に、食材に対して御愁傷様ですと思ったのは初めての体験だ。