crocus
体調が回復したところで、今度は恵介が酢豚を作ってみせた。最初から、こうすればよかったと反省しながら。
「どうぞ。ごく一般的な酢豚です」
「わぁ~!お店で出てくるのと一緒!キラキラしてる。湯気だけでご飯食べれそう!」
背筋を伸ばし、いただきます、と手を合わせて食べ始めた先生の食事マナー完璧で、そこはさすがに大人の仕草だった。料理に対して敬意を払っているようで、作った側として嬉しい気持ちになる。
そんな先生は箸を置いてから、沈んだ表情になった。
「すごいな…恵介くんは。まだ小学6年生なのに、お店に出せそうなくらい、すごく美味しいものを作れるなんて。それに比べて先生は…。なんか恥ずかしくなってきちゃった」
力なく、あははと笑う先生は、すっかり自信を無くしてしまっていた。前髪を触って誤魔化しているけれど、うっすらと目に光るものも浮かんでいる。
恵介はふぅっと大きく息を吐き出し、キッチンへと向かった。先生が見ていた料理教本を手に取り、躊躇せずにゴミ箱に捨てれば、ボスッと音がした。
その音に反応し、顔を上げた先生に向かって、恵介は壁にもたれかかり腕組みをしながらズバリと言った。
「先生ほどめんどくさい人、初めてです」
「…ひ、ひどい…そんなハッキリ…」
「思ったことを言ったまでです。…あと、イラッとします」
先生は、ポカンと間抜け面をしたまま硬直している。恵介はその顔に吹き出しそうになりつつ、言葉を続けた。