crocus
「誰でも最初があるんです。初めから上手く作られたら、僕が今まで研究してきた時間がバカみたいじゃないですか。…あー!もー!だから、つまり…こんな本じゃなくて、僕を頼ったらいいじゃないですか。何のために来たと思ってるんですか?」
「恵介くん…」
「先生は誰か、自分の作った料理を食べてほしい人はいますか?」
「うん、…います」
「その人が食べてる笑顔を思い浮かべて作ったら、全然出来映えがちがうんです。僕の隠し味、知ってしまったからには、上手くなってもらいますから、覚悟してくださいね?」
「はははっ、うん!先生、美味しいって言ってもらえるよう頑張る!その人にも、…恵介くんにも!」
先生が食べさせたい人が、自分ではないことが確実なことが分かって、少し胸がザワザワした。
それが初恋だって気づくのはもう少し後のこと。