crocus
それから毎週土日は出来るだけ先生の自宅に通い、基本的なことから着実に教え込んだ。時には突き放したり、見捨てたり、放置しながら。
相変わらず先生の家は、殺風景で生活感が感じられなかったけれど、料理の後片付けの手際の良さからして単純に綺麗好きなのだと思えば気にすることはなくなった。
もちろん指導の件は、父さんにも学校にも秘密だった。男子生徒が先生の自宅に通ってるなんて問題だし、発覚すれば受験にも響くだろう。何より先生が教員免許剥奪になることが一番怖かった。
先生の近所の人には、年の離れた弟が遊びに来ている設定になっていた。バレたらまずい、そう分かっていても、先生に自分を弟だと紹介される度にチクッと心臓が誤作動を訴えた。
実際に指導の成果はというと、元々努力家の先生は、恵介が帰った後も何度も繰り返し練習しているようで、簡単な料理をマスターしていった。
最終目標の酢豚はまだまだ美味しいとは言えないレベルだけれど、着実に進歩していた。教えている恵介も目に見えて上達する先生と過ごす時間が短く思える程、楽しいものだった。
「奈緒ちゃん、手にいっぱい絆創膏貼ってるね~?どうしたの?」
休み時間に、廊下に立っていた先生は女子生徒に心配されていた。たまたま偶然通りかかった恵介に気づいた先生は、焦ることなく笑顔で返答をする。
「これはね、ミシンの針でブスブスさしちゃったの」
「…………え」
嘘ヘタくそー……。