crocus
こうなれば自棄だと、キッチンに向かい酢豚をタッパーに詰めて、適当にリボンをあしらってみた。自分らしくもないお節介に、ほとほと呆れる。
タッパーを入れた紙袋を渡すと、強引に先生の背中を押して玄関を一緒に出た。
「僕…楽しかったですよ。頑張ってください……奈緒ちゃん」
初めて呼ぶ先生の名前。ぎこちない声は自分の耳で反芻し、歳の差13歳がぐっと縮まった気がした。
唇を噛み締める先生は、胸元をぎゅっと握り、コートに皺を作った。
「これだけは…信じて。先生も…楽しかったよ?」
頑張って笑おうとする先生の目からは、雫が頬を滑っていく。沈みかけた夕日に照らされ、淡いオレンジ色をしていた。
この色を忘れない。
そんなことを、何も知らない僕は純粋に誓っていた。