crocus
利用されていた。いや、最初から利用されていたけれど、あれは僕自身が決めたこと。だけど先生の相手が父さんじゃ、話は違ってくる。
まずは僕を丸め込もうとした。いつか母親という立場を狙っていた。先生は僕のことを子供、師匠、生徒でもなく、息子として見ていたのかも知れない。
そう思うと裏切られた気持ちになった。先生はそんな利口そうな人物にはとても見えない、見えないだけで本性はそうなのかもしれない。
けれど、それを確かめることすら出来なかった。
3学期には元の担任が復帰していたからだ。さらには先生は教職の立場からも退いていて、案の定、引越しも済まされていた。
どれだけ先生の思いを考えてみても、答えをくれる先生はいない。むしろ自分がどんな答えを欲しがっていたのかも分からない。どんな答えでも、きっと傷つくことは目に見えていた。
これで2度目だ。母さんの次は初恋の人が僕の前から逃げていった。
女の人は信頼したら負けだ。後は裏切られるだけ。
行き場のない憎しみと悲しみと無力感から生まれたそんな固定観念が長い間、ついて回ることになった。
僕は何事にも執着することがなくなってしまって私立中学入試も諦め、公立中学へと通った。高校1年の時にオーナーに出会うまで、僕は包丁すら握らなくなってしまったんだ。