crocus
気づいた時にはもう手遅れ
「…オーナーの話はまた今度ね。持ち上げるかと思うと気分を害しそう…僕の」
「はい。また今度」
何をどう感じただろう。優しい声色だけは分かるけれど、変に感傷的になったり、同調して欲しくないんだけどな。
「あーあ、初めてだよ。女の子に打ち明けたの。僕らしくないことばっかりしてるなぁ。君といると」
女の子と2人きりになったり、過去の話をしたり、雪村さんの手を引いて匿っている自分にもだけど、形振り構わず足袋で走り出した雪村さんにも驚かされた。
一言で言えば、雪村さんといると飽きが来ない。
そんな雪村さんは隣で黙ったまま。確かに、今の呟きは嫌味なのか褒められてるのか微妙なライン。なんて答えればいいか分からないんだろう。
何となく困った顔で笑う雪村さんが想像できる。あの顔は嫌いじゃない。
嫌いじゃないと言えば…出て行ったけれど、戻って来たところ。まさか雪村さんが、すごいとこの孫娘だとは思わなかったけれど。
強引にだろうが、帰って来てくれた事実は予想以上に嬉しいものだった。