crocus
雪村さんの冷たい手が恵介の手を取り、その上にツルツルとした物を乗せられた。
「これだけはずっと持ってたんです」
心なしか嬉しそうに聞こえる雪村さんの声は弾んでいて、手に乗るプレゼントの包装紙はホカホカと温かかった。
「まさかこれ着物の中に携帯してたの?間違えれば銃刀法違反だよ?」
「大事なものですし、いつでも渡せるようにと思って。それに法律もすぐに使用出来ない状態であればお咎めなしです!…確か」
どうして他人のために一生懸命になれるんだろう。居場所作りのための彼女の偽善だと思っていた自分が恥ずかしい。実際に彼女の本質に触れれば、それが下心ある行動かどうかなんてどうでもいい。自分のために動いてくれたことが、まず嬉しいのだから。
そんな思いと同時に生じたやっかいな気持ちは、今さらながら闇に視界を覆われているこの状況に敏感に反応する手伝いをし始めた。
衣服しか触れあっていないのに返ってその距離が落ち着かなくさせる。雪村さんの呼吸が聞こえ、石鹸のようだけど少し甘い香りが喉の奥を刺激して、思考を痺れさせてくる。
まさかこの僕が女の子に…。ううん、雪村さん……若葉ちゃんだから、たまんない気持ちになっちゃうのかな。
今の僕は警備員よりよっぽど危ない。