crocus
ゆっくりと右手を上げて、獲物を捕るかのように慎重に気付かれないように動かして、神経を指先に集中させる。
「っひゃ!」
「あーごめんごめん」
彼女に最初に触れた部分は、おそらく耳の下辺りだろう。小さく奇声を発した若葉ちゃんには適当に謝るけれど、どうしたものか止めようとは思わない指先には困ったものだ。
「橘さっ…んっ、くすぐったい…です」
この愉しいドキドキが全身にぞくぞくとした震えを生み出して、自然と頬が緩んでしまっている僕は相当気持ち悪いだろう。
それも、これも、可愛い若葉ちゃんが悪い。愛しいとは、きっとこういう気持ちなのだろう。際限なく沸き起こる気持ちを持て余してしまい、堪える術が分からない。堪えるのさえ、もったいない。
とその時、少し離れた場所からガチャガチャッと倉庫の扉を開けようとしている音が耳に届き、伸ばしていた手でそのまま若葉ちゃんを抱き締めた。