crocus
扉を確認する音と、男達が会話する声はだんだんとはっきり聞こえ、大きくなってくる。あといくつかの順番で、ここの扉は開けられてしまうだろう。
「見つかっちゃうね。僕が囮になって引き付けるから、若葉ちゃんはここにいて、隙をついて逃げるんだよ?」
耳元で子供に言い聞かせるように優しく囁くと、ハシッと素早く腕を捕まれた。その力強さは不安と心配の表れかもしれない。
「たち…ふ、んっ」
何か言おうとした若葉ちゃんの口を押さえると、触れる指が頬の滑らかさを、手の平は唇の柔らかさを鮮明に伝える。
こんな時にも反応する僕は、なかなか若葉ちゃんに酔狂してるのかもしれない。
コップに溜まっていた理性の水はギリギリ表面張力によって溢れなかっただけ、一度溢れた先のルートを知れば後はそこを目指して溢れていくだけだ。
いつしか僕は彼女が好きになってしまっていた。
気づいた時には足掻こうと、否定しようとも手遅れだった。止めどなく流れる想いに、恋と名前を付けて認めるしか、道はない。
とりあえず若葉ちゃんを守らなくてはいけない。彼女をいじめるのは僕だけでいい。
解放された執着心は迷うことなく若葉ちゃんに絡み付いている。若葉ちゃんも、やっかいな人間に好かれてしまって可哀想だと俯瞰で見て思う。
ライバルは少なくないことも重々承知。本来ならそんな面倒な関係も本気なのだから応戦するしかない。